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あ す な ろ ト ー ク 集
30.蓄積の食い潰し
 たこ揚げやはねつきで遊ぶ子供たちの歓声が身を切るような冷たい風をついて響き渡る。
「団塊の世代」の子供のころの正月の記憶はそんなふうだった。昨年末、19世紀末に統計が始
まって以来初めて日本の出生数が死亡数を下回る「自然減」に転じたことが明らかになった。
子供の声が聞こえない社会は寂しい。
 幕末に来日した英国の外交官、オルコックは街にあふれる子供たちが奔放に遊び回るこの国
の風景に接して「子どもの王国」と呼んだ。受験戦争や消費ブームなど戦後社会を彩る道標も
右肩上がりの人口が支えたものだろう。その眺めが逆転してゆく現実を経験する日本には社会
の仕組みの再設計が迫られている。少子化や人口減社会は歴史のなかにしばしば登場する。繁
栄を誇ったベネチアでは17世紀に適齢期の貴族の男の未婚率が7割に達したという。「過去の
蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度」がそこにあったと政治学者の故高坂
正堯氏は指摘している。縮み志向から脱する知恵が求められている。   
平成18年1月1日 日本経済新聞;春秋
【コメント】
おぞましきは過去の蓄積の食い潰しのみならず、未来の資産まで自転車操業的に先食いして、将来に「負
の資産を残すに等しいこと」を平然とやっていることだ。生涯現役とは食い潰しをしないことだとこころ
して、これからを実りあるものとしたい。