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あ す な ろ ト ー ク 集
26.給食とえさ
 欧米人のような狩猟民族は動物を殺して、おいしいところから食べるが、日本人は鯨を捕っ
て油脂からヒゲまで丸ごと全部食べたうえに、骨は工芸品にする。
 鯨の命を大切にするというのもよく分かるが、われわれはその命をいただくから手を合わせ
る。こんな時、キリスト教などでは神に感謝するが、日本人はそこにある食べ物の命に手を合
わせる。だから「あなたの命を私の命にさせていただきます」というのも文化。捕鯨が残虐だ
という意見は誤りだと思う。菜食主義者でも野菜の命を食べていることに違いはない。
 いま学校の給食から「いただきます」「ごちそうさま」がなくなっている。手を合わせるの
を宗教行事とみなし、特定の宗教行事を持込むにはよくないという理由だが「あなたの命を私
の命にさせていただきます」と教えてほしい。食べるという行為は文化的作業なのだ。ただ食
べるだけなら食べ物ではなくてえさだ。給食はえさではない。文化的な食事をしてほしい。教
育現場の食生活は「いただきます」の問題も含めて心もとない気がする。だったら家庭でとい
うことになるが、働くお母さんが増えていることもあり、これも難しい問題がある。
 よく見かける光景に朝のホテルのバイキングがある。平気で取って平気で残す。自分の食べ
る量さえ自分で分からないということだ。それはえさだ。捨てるなら取らないでほしい。鯨は
脂から骨、筋肉、ひげまですべて人の暮らしにいかす。すべてにそうしてほしい。
平成16年6月16日 西日本新聞;いまこの時代に(要約);永 六輔
【コメント】
物が豊かになって、心が貧しくなったという典型例である。親も子もお陰様でという感謝の心を見失った。
食事だけでなく万事がそうだ。こうなると文化とは何かという哲学的な問題となる。文化の英語の語源は耕
すことだ。心を耕さない文化は社会を壊し、滅亡の道を歩む。宗教の問題でなく人類生存の原理だと思う。